EU REACH / エントリー75

世界でいちばん厳しいとされる、
EUのインク規制

EUは化学物質の枠組みであるREACH規則の附属書XVIIに「エントリー75」を新設し、 タトゥーインクと永久化粧(PMU)に使われる4,000を超える有害物質に濃度の上限を設けました。発がん性・変異原性・生殖毒性(CMR)に分類された物質を自動で取り込む方式で、化粧品で禁止された物質も参照します。

  1. 2020.12.14

    規則(EU)2020/2081 採択

    REACH附属書XVIIに「エントリー75」を新設。4,000を超える有害物質に上限を設定。

  2. 2022.01.04

    本則の適用開始

    重金属・PAH・芳香族アミン・CMR物質などの濃度上限と、ラベル表示の義務が発効。

  3. 2023.01.04

    青・緑の基幹色も適用

    Pigment Blue 15:3(CI 74160)と Pigment Green 7(CI 74260)に24か月の猶予を経て適用。事実上の使用禁止に。

青と緑の基幹色(Pigment Blue 15:3 / Pigment Green 7)の禁止は、紫・ピンク・茶など混色にも響き、従来パレットの65〜70%が影響を受けたとされます。出典:規則本文[1]/ECHA[2]。

LIMIT VALUES

何が、どこまで制限されているか

不純物として混ざりやすい重金属には、極めて低い上限が設けられました。数値は1kgあたりのミリグラム(mg/kg)。原典は重量%表記で、1% = 10,000 mg/kg です。

0.7 mg/kg

Lead (Pb)

神経発達への影響・血液毒性・発がん性

水銀

0.5 mg/kg

Mercury (Hg)

神経毒性・免疫毒性

ヒ素

0.5 mg/kg

Arsenic (As)

発がん性・全身毒性

カドミウム

0.5 mg/kg

Cadmium (Cd)

発がん性・腎機能障害

クロム(六価)

0.5 mg/kg

Chromium (VI)

強い発がん性・重いアレルギー

コバルト

0.5 mg/kg

Cobalt (Co)

強い皮膚感作性・発がん性懸念

アンチモン

0.5 mg/kg

Antimony (Sb)

呼吸器毒性・皮膚炎

スズ(有機スズ)

0.5 mg/kg

Tin (Sn)

消化器・神経系への影響

ニッケル

5 mg/kg

Nickel (Ni)

高頻度の接触皮膚炎・感作性

セレン

2 mg/kg

Selenium (Se)

高濃度で肝・腎毒性

250 mg/kg

Copper (Cu)

高用量で肝毒性

亜鉛

2,000 mg/kg

Zinc (Zn)

過剰摂取で代謝への影響

バリウム

500 mg/kg

Barium (Ba)

心血管系への影響・筋力低下

重金属以外の主な制限

ベンゾ[a]ピレン

0.005 mg/kg

代表的なPAH(多環芳香族炭化水素)。強い発がん性。

PAH(発がん性等に分類されるもの)

各0.5 mg/kg

黒の原料カーボンブラックの製造で生じやすい。

芳香族アミン(ベンジジン等)

各5 mg/kg

アゾ色素が皮内・日光で分解すると遊離しうる。

発がん性・変異原性物質(CMR 1A/1B/2)

0.5 mg/kg

CLP規則の調和分類を自動で取り込む。

皮膚感作性物質(区分1)

10 mg/kg

アレルギーを起こす物質。

メタノール(溶剤)

11%

溶剤としての上限。

※ 複数の分類に当てはまる物質は、最も低い上限が適用されます。数値の正本は重量%(原典)。出典:規則本文[1]/重金属の毒性整理[11][12]/オーストラリアの検出例[13]。

WHAT "REACH COMPLIANT" MEANS

「REACH適合」は、
認証ではなく自己宣言

ここが、いちばん誤解されやすいところです。REACHには中央機関による「認証」や公的な適合インク登録簿はありません。 製造者・輸入者・販売者が自分の責任で基準を満たすと宣言する仕組みで、適合性は各国当局の抜き取り検査で事後的に確かめられます。だから「適合」表示と実際の中身が食い違う例が、くり返し報告されています。

査読論文(Swierkら 2024)

「REACH適合」とされる青・緑インク10検体を分析し、9検体が非適合、4検体から禁止顔料(Pigment Green 7 など)を検出。[3]

北欧当局の共同監視(2024)

64事業者の211インクを検査。表示が正しかったのは8%、新規則に完全適合は7%だった。[4]

EU Safety Gate 警告(2023)

Dynamic「Viking」のダークグリーンから鉛を重量比で最大25%検出。非適合として市場回収。[5]

米国での先行調査

9社54検体のうち45検体で、成分とラベル表示が一致しなかった。[6]

これは特定ブランドを否定するためではなく、「表示だけでは保証にならない」という前提を共有するためのものです。

USA / 米国 MoCRA

「MoCRA準拠」も保証ではない

米国では2022年のMoCRA(化粧品規制近代化法)でタトゥーインクの要件が強化されました。ただしその中身は主にFDAへの施設登録と製品リストの提出で、第三者による化学分析や市販前承認、公式な安全証明の発行を義務づけるものではありません。

だから「MoCRA準拠」の表示は、行政手続きを満たしたという意味であって、毒性学的な安全性を保証するものではない、という点に注意が必要です。立証責任をメーカーに移し、市販前に分析データを求めるEUのREACHとは考え方が異なります。

出典:MoCRAと規制の比較[11][15][22]。

FDA

注入用に承認された色素はゼロ

化粧品に使える色素はあっても、皮膚への注入を承認された色素は一つもない。未承認の色素を使えば、そのインクは法的に「不良品(adulterated)」とされる。

FDA

工業グレードの転用

多くの顔料は、そもそも皮膚に触れることを想定していない工業用。印刷インクや自動車塗料に使う色が、そのまま使われてきた。

FDA

最大の現実的リスクは汚染

2003〜2023年に18件のリコール(微生物汚染)。密封インクの調査では49%から細菌・真菌が検出された。FDAは当面この汚染対策を主眼に置くとみられる。

出典:FDAは注入用色素を承認していない・工業用顔料の転用[21]/微生物汚染のリコールと検査[23]/規制の必要性[24]。

監修・更新情報

公開:2026.06.10 / 最終更新:2026.06.10

※ 本ページは一般的な情報提供を目的としたもので、特定製品の安全性を保証・否定するものではありません。「REACH適合」はメーカーの自己宣言であり、適合状況・製品ラインは随時変わります。最終的な判断は、SDS・第三者検査・正規の流通元の情報にもとづいてご確認ください。

参考文献・出典

情報基準日 2026年6月8日。一次資料・査読論文・公的資料を優先し、メーカー/小売の表示には自己宣言である旨を付しています。

出典を表示(全34件)
  1. [1]Commission Regulation (EU) 2020/2081(REACH附属書XVII エントリー75を新設。タトゥーインク・永久化粧の制限), EUR-Lex CELEX:32020R2081 リンク
  2. [2]ECHA「REACH restriction of hazardous substances in tattoo inks and permanent make-up」(エントリー75が4,000超の有害物質を制限) リンク
  3. [3]Moseman, Noble, Sanders, Guo, Swierk「Analysis of blue and green REACH compliant tattoo inks」Analyst 2024;149(21):5329-5335(DOI:10.1039/d4an00793j)。適合表示の青緑10検体中9検体が非適合・4検体に禁止物質 リンク
  4. [4]Nordic Council of Ministers『Joint Control of Tattoo Inks』TemaNord 2024:549。211インクで表示適合8%・完全適合7%※ 北欧当局の共同監視報告。
  5. [5]EU Safety Gate(旧RAPEX)警告 A12/01329/23(チェコ通報、2023)。Dynamic「Viking」ダークグリーンに鉛最大25%、市場回収※ 一次通報。二次情報では対象色の記載に食い違いがあるため一次情報を採用。
  6. [6]Swierk研究チームの米国先行調査(Chemistry World 2024 が報道)。9社54検体中45検体で成分とラベルが不一致※ 二次報道。
  7. [7]厚生労働省「タトゥー施術行為に使用されることが目的とされている機械器具について」(令和4年4月28日 薬生監麻発0428第1号)。タトゥー施術にのみ使う針及びマシン等は薬機法上の医療機器に該当しないと解する、との通知(インクは通知の対象に挙げられていない) リンク
  8. [8]最高裁判所第二小法廷 令和2年9月16日決定(平成30年(あ)1790号 医師法違反被告事件)。タトゥー施術は医師法第17条の「医行為」に当たらないとして検察側上告を棄却 リンク
  9. [9]ECHA CHEM「Substances in tattoo inks and permanent make up」(物質データベース) リンク
  10. [10]CTL GmbH Bielefeld「REACH-compliant tattoo & PMU database」(第三者試験所の検査データベース) リンク
  11. [11]「Occurrence and Regulatory Evaluation of Contaminants in Tattoo Inks」Cosmetics 2023, 10(5):141, MDPI(汚染物質と規制評価) リンク
  12. [12]「Heavy Metal Content in Tattoo and Permanent Makeup Inks and European Standards—Is There Still a Health Risk?」PMC(REACH施行後も限界値超過の製品が流通) リンク
  13. [13]「Toxic metals and carcinogens found in Australian tattoo inks」The BMJ(市販インクからの重金属・発がん物質の検出) リンク
  14. [14]IARC(国際がん研究機関)TATTOOING ナレッジベース(背景情報) リンク
  15. [15]EuPIA「Information Note: Tattoo Inks – Restriction under REACH」(表示要件・濃度上限の整理) リンク
  16. [16]Intenze「Understanding REACH Compliance in the Tattoo Industry」/Gen-Z(自己宣言の適合ライン) リンク※ メーカー公式(販促表現を含む)。
  17. [17]World Famous Tattoo Ink「Limitless」REACH Compliant Pigments リンク※ メーカー公式(販促表現を含む)。
  18. [18]REBEL「MoCRA & REACH Compliance Tattoo Ink」(CTL検査・2023年1月のREACH認証取得と表示) リンク※ メーカー公式(販促表現を含む)。
  19. [19]Killer Ink「EU REACH Compliant Tattoo Ink」/Nordic Tattoo Supplies「REACH Database」(EU小売の適合カテゴリ集約) リンク※ 小売の集約。適合は各社の自己宣言にもとづく。
  20. [20]Ephemeral Tattoo「How Ephemeral Ink Works」「FAQ」(欧州向けはREACH適合・重金属不使用・ビーガンと表示) リンク※ メーカー公式(販促表現を含む)。
  21. [21]U.S. FDA「Tattoos & Permanent Makeup: Fact Sheet」。注入用に承認された色素はなく、未承認色素を使えばインクは不良品(adulterated)。工業用顔料の転用にも言及 リンク
  22. [22]U.S. FDA「FDA Issues Draft Guidance on Tattoo Inks」(MoCRAに基づく不衛生条件のドラフトガイダンス。当面は微生物汚染が主眼) リンク
  23. [23]「Recalls of tattoo and permanent makeup inks in the United States…」PMC。2003〜2023年に18件の汚染リコール、密封インク調査で49%が微生物汚染 リンク
  24. [24]「The pressing need for FDA regulation of tattoo ink」PMC(規制の必要性と顔料の安全性の概観) リンク
  25. [25]「Patterns of Reactions to Red Pigment Tattoo and Treatment Methods」Dermatol Ther 2016(赤色素への反応が最多。赤の組成にAl・Fe・Hg・Cd等を検出) リンク
  26. [26]「Mercury-Cadmium Sensitivity in Tattoos: A Photoallergic Reaction in Red Pigment」Annals of Internal Medicine(赤の硫化水銀・カドミウムによる光線過敏) リンク
  27. [27]University of Utah Health「Think Before You Ink: Tattoos and Adverse Skin Reactions」(皮膚反応の概観・色別の傾向) リンク
  28. [28]Dynamic Color「Safety Data Sheets (SDS) for Tattoo Ink」(製品ごとに個別SDSを公開) リンク※ メーカー公式。
  29. [29]Solid Ink「Product Info and MSDS」(色別の個別開示はなく一括MSDSのみ。CI一覧に 74160 / 74260 を含む) リンク※ メーカー公式。
  30. [30]医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)第2条第3項・第4項。化粧品は「人の身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用」するもの、医療機器は「機械器具等」と定義され、皮内に注入する色材はどちらの定義にも収まらない リンク
  31. [31]製造物責任法(PL法)第2条第3項。製造物を「業として輸入した者」も「製造業者等」に含まれ、欠陥による損害の賠償責任を負う リンク
  32. [32]厚生労働省医政局医事課長通知「医師免許を有しない者によるいわゆるアートメイクの取扱いについて」(令和5年7月3日 医政医発0703第5号・第4号)。眉・アイラインを描く行為は医行為に該当し、無免許で業として行えば医師法第17条違反と回答 リンク
  33. [33]World Famous Tattoo Ink 公式ブログ「You Have Limitless, What Now?」。EU のスタジオに対し「非 REACH 対応インクはすべてスタジオから処分するように」と案内 リンク※ メーカー公式(販促表現を含む)。
  34. [34]Kuro Sumi 公式ブログ「You're Using Imperial, Now What?」。同趣旨の案内(製造元は World Famous と同じ Ink Projects) リンク※ メーカー公式(販促表現を含む)。