タトゥーインクの安全性を、事実で見分ける
タトゥーインクは、もともと人体に入れるために作られたものばかりではありません。何が安全性の懸念になるのか、世界でいちばん厳しいとされるEUのREACH規制は何を制限しているのか、よく見る「REACH適合」という表示はどこまで信じてよいのか。 そして日本のようにインクの成分を規制する法律がない国で、受ける人とアーティストが自分で見分けるにはどうすればいいのか。販促ではなく、出典をつけて中立にまとめます。
4,000超
EU REACH エントリー75 が上限を設けた有害物質の数
8%
北欧当局の共同監視(211インク)で、表示が正しかった割合
7%
同じ検査で、新規則に完全適合していた割合
WHY IT MATTERS
なぜインクの
安全性が問題になるのか
タトゥーに使われてきた色素の多くは、もともと自動車塗料やプラスチック・繊維の染料など 「工業用」に作られた化学物質の転用でした。人体に長くとどまったときの安全性は、十分に検証されてこなかったのです。
皮膚バリアを破って注入する
針で真皮にインクを直接入れる侵襲的な行為。色素は注入部位に残りますが、溶けやすい成分は数時間〜数日で全身に回り、リンパ節や肝臓に移ることが知られています。
分解で別の物質が生じる
色素は日光やレーザー除去で分解し、より毒性の高い小さな化合物を出すことがあります。アゾ色素は、発がん性のある芳香族アミンを遊離しうるとされます。
化粧品より規制が遅れていた
肌に塗る化粧品には厳しい成分規制があったのに、より侵襲的なタトゥーインクは長く規制の外。この矛盾を正したのがEUのREACH規制でした。
出典:注入と全身移行・分解のしくみ[1][14]/化粧品との規制の非対称[2][15]。
EU REACH / エントリー75
世界でいちばん厳しいとされる、
EUのインク規制
EUは化学物質の枠組みであるREACH規則の附属書XVIIに「エントリー75」を新設し、 タトゥーインクと永久化粧(PMU)に使われる4,000を超える有害物質に濃度の上限を設けました。発がん性・変異原性・生殖毒性(CMR)に分類された物質を自動で取り込む方式で、化粧品で禁止された物質も参照します。
2020.12.14
規則(EU)2020/2081 採択
REACH附属書XVIIに「エントリー75」を新設。4,000を超える有害物質に上限を設定。
2022.01.04
本則の適用開始
重金属・PAH・芳香族アミン・CMR物質などの濃度上限と、ラベル表示の義務が発効。
2023.01.04
青・緑の基幹色も適用
Pigment Blue 15:3(CI 74160)と Pigment Green 7(CI 74260)に24か月の猶予を経て適用。事実上の使用禁止に。
青と緑の基幹色(Pigment Blue 15:3 / Pigment Green 7)の禁止は、紫・ピンク・茶など混色にも響き、従来パレットの65〜70%が影響を受けたとされます。出典:規則本文[1]/ECHA[2]。
LIMIT VALUES
何が、どこまで制限されているか
不純物として混ざりやすい重金属には、極めて低い上限が設けられました。数値は1kgあたりのミリグラム(mg/kg)。原典は重量%表記で、1% = 10,000 mg/kg です。
鉛
0.7 mg/kg
Lead (Pb)
神経発達への影響・血液毒性・発がん性
水銀
0.5 mg/kg
Mercury (Hg)
神経毒性・免疫毒性
ヒ素
0.5 mg/kg
Arsenic (As)
発がん性・全身毒性
カドミウム
0.5 mg/kg
Cadmium (Cd)
発がん性・腎機能障害
クロム(六価)
0.5 mg/kg
Chromium (VI)
強い発がん性・重いアレルギー
コバルト
0.5 mg/kg
Cobalt (Co)
強い皮膚感作性・発がん性懸念
アンチモン
0.5 mg/kg
Antimony (Sb)
呼吸器毒性・皮膚炎
スズ(有機スズ)
0.5 mg/kg
Tin (Sn)
消化器・神経系への影響
ニッケル
5 mg/kg
Nickel (Ni)
高頻度の接触皮膚炎・感作性
セレン
2 mg/kg
Selenium (Se)
高濃度で肝・腎毒性
銅
250 mg/kg
Copper (Cu)
高用量で肝毒性
亜鉛
2,000 mg/kg
Zinc (Zn)
過剰摂取で代謝への影響
バリウム
500 mg/kg
Barium (Ba)
心血管系への影響・筋力低下
重金属以外の主な制限
ベンゾ[a]ピレン
0.005 mg/kg
代表的なPAH(多環芳香族炭化水素)。強い発がん性。
PAH(発がん性等に分類されるもの)
各0.5 mg/kg
黒の原料カーボンブラックの製造で生じやすい。
芳香族アミン(ベンジジン等)
各5 mg/kg
アゾ色素が皮内・日光で分解すると遊離しうる。
発がん性・変異原性物質(CMR 1A/1B/2)
0.5 mg/kg
CLP規則の調和分類を自動で取り込む。
皮膚感作性物質(区分1)
10 mg/kg
アレルギーを起こす物質。
メタノール(溶剤)
11%
溶剤としての上限。
※ 複数の分類に当てはまる物質は、最も低い上限が適用されます。数値の正本は重量%(原典)。出典:規則本文[1]/重金属の毒性整理[11][12]/オーストラリアの検出例[13]。
PIGMENTS BY COLOR
色ごとに、何の色素が使われているか
タトゥーの色は、色素(顔料)でできています。同じ「赤」でも、昔は硫化水銀やカドミウムのような重金属系、いまは有機顔料が主流、というように中身は移り変わってきました。代表的な顔料を、CI(カラーインデックス)番号つきで色別に整理します。
黒炭素・酸化鉄
カーボンブラック(CI 77266)/酸化鉄ブラック(CI 77499)
最も多用される色。カーボンブラックはPAH(多環芳香族炭化水素)の不純物管理が課題。
赤酸化鉄・有機アゾ
酸化鉄レッド(CI 77491)/ナフトールAS系アゾ/カルミン(CI 75470)
歴史的には辰砂(硫化水銀)やカドミウムレッドも。色別ではアレルギーが最も多い。
黄酸化鉄・有機アゾ
酸化鉄イエロー(CI 77492)/アゾイエロー
歴史的にカドミウムイエロー(硫化カドミウム)・クロムイエロー(鉛)。日光で過敏が出ることがある。
青フタロシアニン(銅)ほか
フタロシアニンブルー Pigment Blue 15:3(CI 74160)/群青・コバルトブルー
PB15:3はEUで2023年1月以降は使用不可(禁止顔料)。
緑フタロシアニン(銅)・クロム
フタロシアニングリーン Pigment Green 7(CI 74260)/酸化クロム
PG7はEUで2023年1月以降は使用不可(禁止顔料)。
白金属酸化物
二酸化チタン(CI 77891)/酸化亜鉛
混色の薄め用に広く使われる。レーザー照射で黒ずむ懸念が指摘される。
紫・橙・茶有機顔料・酸化鉄
キナクリドン/ジオキサジン紫/アゾ橙/酸化鉄ブラウン
多くは赤・青・黄の混色、または有機顔料でつくられる。
※ 実際の配合はメーカー・色ごとに異なり、複数の顔料を混ぜることが普通です。出典:色素の組成とCI番号[21][24]/カーボンブラックの不純物[14]。
ALLERGY & REACTIONS
色によって、危険度はちがう
アレルギーや皮膚の反応は、色(=中の色素)によって起こりやすさが変わります。とくに赤がいちばん多いことは、古くからくり返し報告されてきました。一般的な傾向をまとめます(個人差があり、必ず起こるわけではありません)。
赤
高色別で最も多い。歴史的には硫化水銀(辰砂)やカドミウムによる光線過敏・遅延型過敏。現代のアゾ/ナフトール赤でも、肉芽腫や接触皮膚炎の報告がある。
黄
中カドミウム由来の黄で、日光に当たると腫れ・かゆみが出る光線過敏が知られる。現代は有機顔料が主だが、反応の報告はある。
青・緑
中〜低頻度は低いが、クロム・コバルト・フタロシアニンに対する遅延型の反応が報告されている。
黒
低アレルギー自体は比較的少ない。ただし最も多用されるため、感染やPAHなど量的なリスクは無視できない。なお『ブラックヘナ』のPPDは別物で、強い感作を起こす。
白
低二酸化チタンは混色で広く使われ、反応を長引かせたり、レーザー照射で黒変する懸念が指摘される。
色を問わず気をつけたいこと
- 反応は施術直後だけでなく、数週間〜数年後に出る「遅延型」もある。
- 日光やレーザー除去で、かゆみ・腫れが悪化することがある。
- 強いかゆみ・しこり・水ぶくれ・全身症状が出たら、皮膚科を受診する。
出典:赤色素への反応パターン[25]/硫化水銀・カドミウムの光線過敏[26]/皮膚反応の概観[27]。
WHAT "REACH COMPLIANT" MEANS
「REACH適合」は、
認証ではなく自己宣言
ここが、いちばん誤解されやすいところです。REACHには中央機関による「認証」や公的な適合インク登録簿はありません。 製造者・輸入者・販売者が自分の責任で基準を満たすと宣言する仕組みで、適合性は各国当局の抜き取り検査で事後的に確かめられます。だから「適合」表示と実際の中身が食い違う例が、くり返し報告されています。
査読論文(Swierkら 2024)
「REACH適合」とされる青・緑インク10検体を分析し、9検体が非適合、4検体から禁止顔料(Pigment Green 7 など)を検出。[3]
北欧当局の共同監視(2024)
64事業者の211インクを検査。表示が正しかったのは8%、新規則に完全適合は7%だった。[4]
EU Safety Gate 警告(2023)
Dynamic「Viking」のダークグリーンから鉛を重量比で最大25%検出。非適合として市場回収。[5]
米国での先行調査
9社54検体のうち45検体で、成分とラベル表示が一致しなかった。[6]
これは特定ブランドを否定するためではなく、「表示だけでは保証にならない」という前提を共有するためのものです。
JAPAN / 日本
日本は「法的空白」
日本にはタトゥーインクの成分を規制する法律がありません。2020年に最高裁がタトゥー施術は医行為に当たらないと判断し、2022年に厚生労働省は針・マシン・インクを薬機法上の医療機器ではなく「雑貨」として扱うと通知しました。つまり、人体注入を前提とした成分の事前審査や重金属の含有制限が、国の制度としては存在しません。
その結果、海外で販売が止められた旧型インクが流入する余地もあります。安全を守る最後の砦は、現場の見分ける力です。
出典:厚労省通知[7]/最高裁決定[8]。
USA / 米国 MoCRA
「MoCRA準拠」も保証ではない
米国では2022年のMoCRA(化粧品規制近代化法)でタトゥーインクの要件が強化されました。ただしその中身は主にFDAへの施設登録と製品リストの提出で、第三者による化学分析や市販前承認、公式な安全証明の発行を義務づけるものではありません。
だから「MoCRA準拠」の表示は、行政手続きを満たしたという意味であって、毒性学的な安全性を保証するものではない、という点に注意が必要です。立証責任をメーカーに移し、市販前に分析データを求めるEUのREACHとは考え方が異なります。
出典:MoCRAと規制の比較[11][15][22]。
FDA
注入用に承認された色素はゼロ
化粧品に使える色素はあっても、皮膚への注入を承認された色素は一つもない。未承認の色素を使えば、そのインクは法的に「不良品(adulterated)」とされる。
FDA
工業グレードの転用
多くの顔料は、そもそも皮膚に触れることを想定していない工業用。印刷インクや自動車塗料に使う色が、そのまま使われてきた。
FDA
最大の現実的リスクは汚染
2003〜2023年に18件のリコール(微生物汚染)。密封インクの調査では49%から細菌・真菌が検出された。FDAは当面この汚染対策を主眼に置くとみられる。
出典:FDAは注入用色素を承認していない・工業用顔料の転用[21]/微生物汚染のリコールと検査[23]/規制の必要性[24]。
HOW TO VERIFY
インクの安全性を、
自分で見分ける手順
「ビーガン」「オーガニック」「安全」といった言葉ではなく、文書と番号で確かめます。受ける人は施術前に、アーティストは仕入れのときに使えます。
SDSを読む
メーカーがバッチ別に出す安全データシートを取り寄せ、REACH附属書XVIIへの準拠表明・全成分・CMR物質の不含が書かれているかを見る。出せないメーカーの製品は安全要件を満たさないとみなす。
CI番号を点検する
ラベルのCI(カラーインデックス)番号を確認。CI 74160(Pigment Blue 15:3)と CI 74260(Pigment Green 7)は2023年1月以降EU不可。アゾ系の Orange 13・Yellow 14 なども不可。
第三者データベースで照合する
ドイツのCTL GmbH Bielefeld(タトゥー/PMUのREACH検査に特化した試験所)の公開DBや、ECHAの物質データベースでブランド名・色名・製品番号を照合する。
ラベルの必須表示を見る
「Mixture for use in tattoos or permanent make-up」の文言、バッチ番号、ニッケル/六価クロム含有時の警告文が入っているか。小さな容器は使用説明書に記載されることもある。
正規の流通から買う
SDSや適合宣言書を求めに応じて出せる正規ルートで仕入れる。偽造品や保管の悪い非正規ルートは、どんな判定法も意味をなさない。
出典:SDS・ラベル要件[1][15]/CI番号と禁止顔料[1][2]/第三者DB[9][10]。
ASK YOUR SUPPLIER / 供給者へ照会
「REACH対応ですか?」だけでは、
足りない
REACH エントリー75 は「ブランド」ではなく、一つひとつの混合物(製品・色・ロット)にかかる規制です。だから判断はブランド名ではなく、製品名・色名・ロット番号で固定して行います。下の4資料がそろって初めて「適合」に近づき、そろわなければ結論は保留にしておくのが安全です。
現行版のSDS
その品番・その色・そのラインに対応した最新版か。ブランド全色をまとめた古い汎用MSDSではなく、対象製品に紐づくものを求める。
REACH適合証明書(CoC/DoC)
本文に「REACH Annex XVII Entry 75 / Regulation (EU) 2020/2081」が明記されているか。ブランド名だけの『REACH対応』表示では証明にならない。
ロット別の試験報告書/CoA
そのロットについて、Appendix 13 物質・PAH・重金属・芳香族アミン・保存剤やホルムアルデヒド関連物質の確認ができるか。
ラベル写真
「Mixture for use in tattoos or permanent make-up」の文言・一意のバッチ番号・成分一覧が写っているか。ニッケルや六価クロムを含む場合はその表示も。
COPY & PASTE / 照会メールのひな形
件名:REACH Entry 75 適合資料のご提供のお願い いつもお世話になっております。 下記の製品について、EU REACH Annex XVII Entry 75 / Commission Regulation (EU) 2020/2081 への適合を確認しております。 対象製品 ブランド: 製品名(ライン名): 色名: 容量: ロット番号: 恐れ入りますが、以下の資料をご提供ください。 1. 現行版のSDS 2. REACH適合証明書(CoC / Declaration of Conformity) 3. 当該ロットに対応する試験報告書またはCoA 4. ボトルのラベル写真(「Mixture for use in tattoos or permanent make-up」の文言・ロット番号・成分一覧が確認できるもの) 可能であれば、試験報告書がカバーする項目(Appendix 13 物質・PAH・重金属・芳香族アミン・保存剤関連)もあわせてご教示ください。 何卒よろしくお願いいたします。
この4資料の束がそろわないうちは、たとえブランドが有名でも調達判定は「保留」にとどめるのが安全側の運用です。 エントリー75 はロット(製造バッチ)単位で適合を求める規制なので、同じ製品でも入荷ロットが変わるたびに確認し直すのが原則です。 出典:REACH エントリー75・Regulation (EU) 2020/2081 とラベル要件[1][15]、第三者試験所のデータベース[10]。
READING AN SDS / 実例
SDSを一行ずつ読み解いてみる
実例として、ある「消えるインク(made-to-fade)」の黒のSDSを読み解きます。面白いのは、この黒に「黒い顔料(カーボンブラック)」が入っていないこと。赤や緑など色のついた有機色素を混ぜて、黒く見せています。
水
インクの土台になる溶媒。いちばん多くを占める成分です。
リコピン(CI 75125)
トマトやスイカを赤くする天然のカロテノイド色素。発色を担う赤の一つ。
レッド195(ソルベントレッド195)
発色を担う赤の有機色素。
グリセリン
うるおいを保つ保湿成分。化粧品や食品にも広く使われています。
グリーン3(D&C Green No.6)
緑の有機色素。米国で外用の医薬品・化粧品にも使われる色です。
イソプロピルアルコール(ごく少量)
製造・品質管理を助けるアルコール。引火しやすいのは容器・保管上の性質で、皮膚そのもののリスクではありません。
レッド23(ソルベントレッド23)
赤〜橙の有機色素(アゾ系)。
| SDSの表記 | 正体・はたらき |
|---|---|
| 水 | インクの土台になる溶媒。いちばん多くを占める成分です。 |
| リコピン(CI 75125) | トマトやスイカを赤くする天然のカロテノイド色素。発色を担う赤の一つ。 |
| レッド195(ソルベントレッド195) | 発色を担う赤の有機色素。 |
| グリセリン | うるおいを保つ保湿成分。化粧品や食品にも広く使われています。 |
| グリーン3(D&C Green No.6) | 緑の有機色素。米国で外用の医薬品・化粧品にも使われる色です。 |
| イソプロピルアルコール(ごく少量) | 製造・品質管理を助けるアルコール。引火しやすいのは容器・保管上の性質で、皮膚そのもののリスクではありません。 |
| レッド23(ソルベントレッド23) | 赤〜橙の有機色素(アゾ系)。 |
正直に読む①
重金属(鉛・水銀など)を主成分にしない設計。黒の正体は炭素のかたまりではなく、分解されやすい有機色素です。
正直に読む②
ごく少量のイソプロピルアルコールが「引火性」と分類されますが、これは容器・保管上の性質。皮膚に対する危険度ではありません。
正直に読む③
「軽度の皮膚刺激(区分3)」など弱い分類が付くことはあります。隠さず読み、強い分類(発がん性など)がないかをこそ確認します。
※ これは黒インクのSDSにもとづく内訳の一例で、配合は色(黒・赤・青)ごとに異なります。数値は幅をもたせた申告レンジで、実処方そのものではありません。出典:当該メーカー公式[20]。
BRANDS × LINES / 早見表
ブランド名ではなく、
「ライン名」で見分ける
同じブランドでも、米国向けや旧処方のラインは非適合のことが多くあります。適合をうたうのは特定の再配合サブラインに限られる、というのが基本です。国内で使われることの多いブランドを中心に整理します。
Solid Ink
自己宣言適合ラインEU向け再配合ラインは確認できず
非適合標準(米国仕様)全般
色別の個別SDSは公開されておらず、一括のMSDSのみ。その成分表には EU禁止の CI 74160(青)/ CI 74260(緑)が含まれ、EUでは販売停止・非適合とされる。色別の組成は問い合わせが必要。2026年6月時点の公開情報の範囲では、公式サイトに REACH 適合宣言・CoC(適合証明書)・ロット別の試験成績書は見当たらず、ブランド全体を適合と扱うのは難しい(ロット番号と有効期限の表示はある)。
Dynamic
自己宣言適合ラインViking by Dynamic/Union Black
非適合Dynamic BLK(原)・Platinum の一部・Triple Black
製品ごとに個別SDSを公開(Dynamic Black/Triple Black/Union Black 等)。Triple Black・原BLK はREACH非適合で、EUではタトゥー・PMU用途に使えない(「人体使用不可・練習用」の表記はEU販売店の商品ページ表示。Dynamic公式の単一声明として確認できたものではない)。Safety Gate で Viking のダークグリーンに鉛最大25%が出て回収。Swierk検査で Platinum の青・緑が非適合。2026年6月時点の公開情報の範囲では、公式が製品別SDSを公開し Platinum・Union Black を REACH適合と明示する一方、CoC(適合証明書)やロット別CoA、旧来カラーのREACH表示までは確認できず、ブランド全体ではなくライン単位で判断する必要がある。
Intenze
自己宣言適合ラインGen-Z(ISO認証施設・ビーガン)/Black Label
非適合旧処方ライン
Gen-Z は適合専用として再配合。ただしSwierkの検査対象10検体には Gen-Z の青・灰も含まれ、非適合群に入った色があった。
Radiant
自己宣言適合ラインRadiant Evolved
非適合オリジナル(米国仕様)
メーカーが2022年に旧ラインを非適合と告知。Evolved の Lyon Blue は単一バッチ(LOT 01)で回収連絡が出た例あり。2026年6月時点の公開情報の範囲では、メーカー公式サイトに現行Evolvedの公式SDS・CoCページは見当たらず、適合の主張は主に流通側(Nordic Tattoo Supplies の REACH Database、Barber DTS 等)に依拠しており、一次資料は流通側が先行している。
そのほかの適合専用ライン(自己宣言)
| ブランド | 適合ライン | 補足 |
|---|---|---|
| World Famous | Limitless | EU向け専用に組成を再設計と表示。FDA GMP・ISO 13485下で製造とメーカーが表示。 |
| Kuro Sumi | Imperial | 日本由来処方をEU REACH適合に再配合と表示。ISO 13485。 |
| Eternal Ink | Apex | 同社初のEU向けカラーライン。 |
| REBEL | ブラック(CTL認証) | ドイツCTLに検体を送り、2023年1月に公式なREACH認証を取得・分析データを公開と表示。 |
| Perma Blend(PMU) | LUXE | EU向けの永久化粧ライン。BVL登録表示。 |
| Ephemeral(消えるインク) | 欧州向け製品 | 欧州向けはREACH適合・重金属不使用・ビーガン・単回滅菌と表示。黒は有機色素を混ぜて作り、カーボンブラックを使わない。 |
World Famous
Limitless
EU向け専用に組成を再設計と表示。FDA GMP・ISO 13485下で製造とメーカーが表示。
Kuro Sumi
Imperial
日本由来処方をEU REACH適合に再配合と表示。ISO 13485。
Eternal Ink
Apex
同社初のEU向けカラーライン。
REBEL
ブラック(CTL認証)
ドイツCTLに検体を送り、2023年1月に公式なREACH認証を取得・分析データを公開と表示。
Perma Blend(PMU)
LUXE
EU向けの永久化粧ライン。BVL登録表示。
Ephemeral(消えるインク)
欧州向け製品
欧州向けはREACH適合・重金属不使用・ビーガン・単回滅菌と表示。黒は有機色素を混ぜて作り、カーボンブラックを使わない。
このほか、EUの小売(Killer Ink・Nordic Tattoo Supplies など)が「EU REACH適合」枠で扱うブランドとして、I AM INK・Panthera・Carbon Black・Kwadron Inx・Xtreme・Raw・Quantum・Eclipse・Kokkai Sumi・Premier・KILLERBLACK・Unistar などがあります。
※ いずれもメーカー/販売者の自己宣言にもとづく整理で、公的認証ではありません(情報基準日 2026年6月8日)。製品の改廃・適合状況は随時変わり、同じブランドでも旧在庫は非適合のことがあります。なお、SDSの開示姿勢そのものも見分けの手がかりになります(例:Dynamicは製品ごとに個別SDSを公開、Solidは一括MSDSのみで色別は非開示)。出典:各社公式・EU小売の集約[16][17][18][19][20]、SDS開示[28][29]、独立検査の指摘[3][5]。
MADE-TO-FADE
消えるインク(エフェメラル)の位置づけ
数年で薄くなる「消えるインク」も、欧州向けの製品はREACH適合・重金属不使用・ビーガン・単回使用滅菌と表示されています。黒は普通のタトゥーのようにカーボンブラックを使わず、有機色素を混ぜて黒く見せ、生分解性の殻で包む設計です。退色の目安は半年〜2年(個人差あり)。 成分のしくみと安全性は、別ページで図解しています。
FAQ
よくある質問
日本で売られているタトゥーインクは、安全性が保証されていますか?
いいえ。日本にはインクの成分を規制する法律がなく、針やインクは法的には「雑貨」として扱われます。海外で販売が禁止された旧型インクが流入する余地もあり、安全はアーティストやスタジオのリテラシー(見分ける力)に委ねられているのが実情です。
「REACH適合」と書いてあれば安全ですか?
REACH適合はメーカー自身による自己宣言で、中央機関による認証や公的な適合インク登録簿はありません。実際、独立した検査では『適合』表示でも禁止顔料や重金属が見つかった例が多数あります。ライン名・CI番号・SDS・第三者データベースで自分で確かめることが大切です。
どの成分が問題になりやすいのですか?
鉛・ヒ素・カドミウム・六価クロムなどの重金属、黒の製造で生じやすいPAH(多環芳香族炭化水素)、アゾ色素が皮内や日光で分解して生じる芳香族アミン、そして青・緑の基幹色だった Pigment Blue 15:3 / Pigment Green 7 などです。
ブランド名だけで選んでよいですか?
いいえ。同じブランドでも、米国向けや旧処方のラインは非適合のことが多くあります。EU向けの適合専用ライン名(例:Limitless/Imperial/Gen-Z/Apex/Viking by Dynamic/Radiant Evolved)と、製造が最新規制以降であることをバッチ番号で確認してください。
消えるタトゥー(エフェメラル)のインクはどうですか?
欧州向けの製品はREACH適合・重金属不使用・ビーガンと表示されています。黒は普通のタトゥーのようにカーボンブラック(すす)を使わず、色のついた有機色素を混ぜて黒く見せ、生分解性の殻で包む設計です。詳しくは「エフェメラルとは」のページで図解しています。
自分でもできる確認方法はありますか?
あります。販売元にSDSを求めて読む、ラベルのCI番号を見る、CTLやECHAのデータベースで照合する、SDSや適合宣言書を出せる正規ルートから買う。この4つだけでも、見分ける力は大きく上がります。
CHECKLIST
インクを選ぶときの、確認リスト
- 使うインクのブランド「ライン名」とバッチ番号を確認した
- SDS(安全データシート)を取り寄せて読める状態にある
- CI 74160 / CI 74260(青・緑の禁止顔料)が入っていないか確認した
- 「REACH適合」は自己宣言で、公的認証ではないと理解している
- 旧処方・米国向けの在庫を、EU適合品と混同していない
- SDS・適合宣言書を出せる正規の流通から仕入れている
参考文献・出典
情報基準日 2026年6月8日。一次資料・査読論文・公的資料を優先し、メーカー/小売の表示には自己宣言である旨を付しています。
- [1]Commission Regulation (EU) 2020/2081(REACH附属書XVII エントリー75を新設。タトゥーインク・永久化粧の制限), EUR-Lex CELEX:32020R2081 リンク
- [2]ECHA「REACH restriction of hazardous substances in tattoo inks and permanent make-up」(エントリー75が4,000超の有害物質を制限) リンク
- [3]Moseman, Noble, Sanders, Guo, Swierk「Analysis of blue and green REACH compliant tattoo inks」Analyst 2024;149(21):5329-5335(DOI:10.1039/d4an00793j)。適合表示の青緑10検体中9検体が非適合・4検体に禁止物質 リンク
- [4]Nordic Council of Ministers『Joint Control of Tattoo Inks』TemaNord 2024:549。211インクで表示適合8%・完全適合7%※ 北欧当局の共同監視報告。
- [5]EU Safety Gate(旧RAPEX)警告 A12/01329/23(チェコ通報、2023)。Dynamic「Viking」ダークグリーンに鉛最大25%、市場回収※ 一次通報。二次情報では対象色の記載に食い違いがあるため一次情報を採用。
- [6]Swierk研究チームの米国先行調査(Chemistry World 2024 が報道)。9社54検体中45検体で成分とラベルが不一致※ 二次報道。
- [7]厚生労働省「タトゥー施術行為に使用される機械器具について」(令和4年 薬生監麻発第428001号)。針・マシン・インクは薬機法上の医療機器に該当しない(雑貨扱い) リンク
- [8]最高裁判所 令和2年9月16日決定(タトゥー施術と医師法第17条「医行為」)。施術は医行為に当たらないと確定 リンク
- [9]ECHA CHEM「Substances in tattoo inks and permanent make up」(物質データベース) リンク
- [10]CTL GmbH Bielefeld「REACH-compliant tattoo & PMU database」(第三者試験所の検査データベース) リンク
- [11]「Occurrence and Regulatory Evaluation of Contaminants in Tattoo Inks」Cosmetics 2023, 10(5):141, MDPI(汚染物質と規制評価) リンク
- [12]「Heavy Metal Content in Tattoo and Permanent Makeup Inks and European Standards—Is There Still a Health Risk?」PMC(REACH施行後も限界値超過の製品が流通) リンク
- [13]「Toxic metals and carcinogens found in Australian tattoo inks」The BMJ(市販インクからの重金属・発がん物質の検出) リンク
- [14]IARC(国際がん研究機関)TATTOOING ナレッジベース(背景情報) リンク
- [15]EuPIA「Information Note: Tattoo Inks – Restriction under REACH」(表示要件・濃度上限の整理) リンク
- [16]Intenze「Understanding REACH Compliance in the Tattoo Industry」/Gen-Z(自己宣言の適合ライン) リンク※ メーカー公式(販促表現を含む)。
- [17]World Famous Tattoo Ink「Limitless」REACH Compliant Pigments リンク※ メーカー公式(販促表現を含む)。
- [18]REBEL「MoCRA & REACH Compliance Tattoo Ink」(CTL検査・2023年1月のREACH認証取得と表示) リンク※ メーカー公式(販促表現を含む)。
- [19]Killer Ink「EU REACH Compliant Tattoo Ink」/Nordic Tattoo Supplies「REACH Database」(EU小売の適合カテゴリ集約) リンク※ 小売の集約。適合は各社の自己宣言にもとづく。
- [20]Ephemeral Tattoo「How Ephemeral Ink Works」「FAQ」(欧州向けはREACH適合・重金属不使用・ビーガンと表示) リンク※ メーカー公式(販促表現を含む)。
- [21]U.S. FDA「Tattoos & Permanent Makeup: Fact Sheet」。注入用に承認された色素はなく、未承認色素を使えばインクは不良品(adulterated)。工業用顔料の転用にも言及 リンク
- [22]U.S. FDA「FDA Issues Draft Guidance on Tattoo Inks」(MoCRAに基づく不衛生条件のドラフトガイダンス。当面は微生物汚染が主眼) リンク
- [23]「Recalls of tattoo and permanent makeup inks in the United States…」PMC。2003〜2023年に18件の汚染リコール、密封インク調査で49%が微生物汚染 リンク
- [24]「The pressing need for FDA regulation of tattoo ink」PMC(規制の必要性と顔料の安全性の概観) リンク
- [25]「Patterns of Reactions to Red Pigment Tattoo and Treatment Methods」Dermatol Ther 2016(赤色素への反応が最多。赤の組成にAl・Fe・Hg・Cd等を検出) リンク
- [26]「Mercury-Cadmium Sensitivity in Tattoos: A Photoallergic Reaction in Red Pigment」Annals of Internal Medicine(赤の硫化水銀・カドミウムによる光線過敏) リンク
- [27]University of Utah Health「Think Before You Ink: Tattoos and Adverse Skin Reactions」(皮膚反応の概観・色別の傾向) リンク
- [28]Dynamic Color「Safety Data Sheets (SDS) for Tattoo Ink」(製品ごとに個別SDSを公開) リンク※ メーカー公式。
- [29]Solid Ink「Product Info and MSDS」(色別の個別開示はなく一括MSDSのみ。CI一覧に 74160 / 74260 を含む) リンク※ メーカー公式。
監修・更新情報
公開:2026.06.10 / 最終更新:2026.06.10
※ 本ページは一般的な情報提供を目的としたもので、特定製品の安全性を保証・否定するものではありません。「REACH適合」はメーカーの自己宣言であり、適合状況・製品ラインは随時変わります。最終的な判断は、SDS・第三者検査・正規の流通元の情報にもとづいてご確認ください。