
首位はイタリア、2018年の国際調査が示した顔ぶれ
タトゥーを入れている人が多い国はどこでしょうか。多くの人が思い浮かべるのは、映画やドラマでおなじみの米国かもしれません。ところが、統計サイトStatistaのデータによると首位はイタリアでした[8]。この結果は、調査会社Dalia Researchが2018年4月に行ったオンライン調査によるものです[8]。
このStatista掲載データで確認できるのは、調査対象が18カ国のインターネット利用者、計9,054人であることです[8]。世界中すべての国を並べたランキングではありません[8]。その範囲の中で、イタリアは回答者の48%が「少なくとも1つのタトゥーがある」と答え、最も高い割合になりました[8]。
米国は回答者の46%とされ、イタリアの48%とわずか2ポイント差でした[8]。この48%や46%は、あくまでインターネット利用者の回答者の中での割合です。Statistaの公開ページで確認できるのは、対象がインターネット接続のある回答者で、オンライン調査・総回答者9,054人という点までです[8]。国別の抽出法や重み付けの有無は公開部分からは確認できないため、国民全体の代表値とは限りません[8]。実際、イタリア国立衛生研究所のRenzoniらは2018年に、一般人口を対象にした全国調査の論文を発表しています[9]。この調査は12歳から75歳以上の7,608人に電話とウェブで聞き、タトゥーがある人の割合を12.8%と推定しました[9]。同じ国でも、対象となる母集団や標本設計、質問の仕方など、複数の違いによって数字が変わることがうかがえます。
ネット上で見かける「国別タトゥーランキング」の記事には、このDalia調査を出どころにしているものもあります。まずはこの数字がどう作られたのかを確かめていきます。

ランキングはどう作られたか、方法と限界
この記事で確認できたのは、統計サイトStatistaに掲載されたDalia Researchの調査データです[8]。調査は2018年4月にオンラインで行われ、対象はインターネット接続のある人でした[8]。Statistaの該当ページでは、Dalia Researchのグラフの日付が2018年5月16日、Statista掲載日が2018年11月13日と表示されています[8]。対象は18カ国とされています[8]。無料公開部分では、対象国の全体一覧を確認できる一次資料のURLは示されていません[8]。この調査では、イタリアが48%、米国が46%と上位に並びます[8]。国別内訳をまとめた全体表は無料公開部分では閲覧が制限されており、完全な一覧はStatistaの有料ページに依ります[8]。この記事で確認できた無料公開部分には、日本の数値は示されていません[8]。日本の状況を知るには、別の調査を探す必要があります。この点は後半で詳しく見ていきます。
回答者数にも目を向けましょう。18カ国で計9,054人です[8]。単純平均では1カ国あたり約503人になりますが、これは総数を18で割った値であり、実際に測定された国別の回答者数ではありません[8]。この記事で確認できた資料は統計サイトStatistaに掲載された二次的なデータです[8]。国別の詳しい内訳表は閲覧が制限されており、Dalia Researchが公表した一次資料のURLもこの記事では確認できていません[8]。
そのため、この統計サイトの公開ページからは、国ごとの実際の回答者数や年齢構成、誤差の大きさを確認できません[8]。これは、Dalia Research側にそうした詳細情報が存在しないことを示すものではありません。イタリアの48%と米国の46%の差は、2ポイントしかありません[8]。誤差の情報を確認できない以上、この差だけで順位を断定することはできません。
もう一つ大事なのは、この数字の性格です。設問は「少なくとも1つのタトゥーがあるか」で、対象はインターネット利用者でした[8]。国ごとの抽出方法や重み付けが、一般人口を代表するように設計されたかは公開資料からは分かりません[8]。Dalia Researchの一次資料のURLはこの記事では確認できておらず、確認できるのはStatista経由の二次データのみです[8]。
そのため、18カ国という範囲や国別の順位そのものも、一次資料で裏付けられたものではなく、二次資料が示す限りの情報として読む必要があります[8]。この数字を国民全体の割合としてそのまま受け取ることもできません。先ほどのイタリアの全国調査の12.8%との開きが、それをよく示しています[9]。国どうしをおおまかに見比べるための目安と考えるのが安全です。
米国の数字は調査によってこんなに変わる
Dalia Researchの調査で米国は回答者の46%でしたが、他の調査では違う数字が出ています[8]。米国のシンクタンクPew Research Centerは、2023年8月15日に調査結果を公開しました[10]。米国の成人では、32%が少なくとも1つのタトゥーがあり、22%は複数のタトゥーがあります[10]。同じ国なのに、調査によって14ポイントもの開きがあるわけです。
もう少し前の調査も見てみましょう。The Harris Pollの調査結果は、PR Newswireが2016年2月10日付で配信しました。それによると、タトゥーがある米国人は29%でした[11]。これは2015年10月14日から19日に、米国の18歳以上2,225人をオンラインで調べたものです[11]。参加同意済みのパネルから標本を選んだため、理論上の標本誤差は算出できないと、Harris自身が説明しています[11]。
一方、Pewの2023年調査は2023年7月10日から16日に、米国の成人8,480人に聞きました[10]。回答は性別や人種、学歴などで米国成人を代表するよう重み付けされています[10]。Pew自身も、方式と質問文が違う2010年の電話調査とは直接比較できないと明記しています[10]。
Pewの32%、Harrisの29%、Daliaの46%を並べると、Daliaが高く見えます[8,10,11]。ただし3つの調査は対象年齢や母集団、調査年、抽出法がそれぞれ異なり、同じものを測った数字として直接比べることはできません[8,10,11]。差の原因を公開資料から特定することもできません。
ここから引き出せる教訓はシンプルです。タトゥーの保有率は「誰に、どうやって聞いたか」で大きく変わります。ランキング記事の数字を見たら、まず調査元と調査方法を確かめる習慣を持つと、数字に振り回されずに済みます。
日本の保有率はどのくらいか
総務省統計局が実施した令和2年国勢調査では、世帯員に関する15項目と世帯に関する4項目、合計19項目を調査しています[19]。この19項目にタトゥーの有無は含まれていません[19]。これはこの記事で確認できた範囲での結果であり、全国規模の公的統計がほかに存在しないことを証明するものではありません。手がかりになるのは研究者による調査です。鈴木公啓さんと大久保智生さんは2018年に、20代から50代、6,438人を対象にした実態調査を発表しました[12]。この調査では、タトゥーを入れている人は6,438人中104人で、1.6%でした[12]。日本伝統の図柄による和彫りは「彫り物」として別に集計され、47人で0.7%でした[12]。
ここでいう「タトゥー」は和彫り以外の洋彫りを指す調査票上の区分です。「彫り物」との合計が、一般的な意味でのタトゥー保有率にそのまま対応するわけではありません[12]。またこの調査は、全世代を対象にした確率標本の全国推計だとは述べていません[12]。日本人全体の保有率を表す公的な数字ではないことに注意してください。
この1.6%や0.7%を、Dalia調査のイタリア48%と並べたくなります[8,12]。けれども、両者は調査の主体も方法も対象も違います。片方はインターネット利用者への国際オンライン調査、もう片方は20代から50代への実態調査で、質問のしかたも同じではありません[8,12]。そのまま数字どうしを比べることはできません。それでも、日本と欧米で数字の水準が大きく違って見えるのはなぜでしょうか。次の章では、その背景を知る手がかりとして、日本の彫り物がたどった歴史を見ていきます。
彫り物が地下に潜った、日本の76年間
日本では、明治期から1948年にかけて、入れ墨や彫り物が禁止されていた時期があったとされています[18]。千葉市のヒップホップ・ストリートウェア店に関わる若者を対象にした一つの事例研究では、タトゥーと暴力団を結びつけるイメージが根強く残っている実情が報告されています[17]。この調査では、対象となった若者たちの間で、タトゥーのある人が暴力団と結びつけられ、社会的な不利益につながる場合があると指摘されています[17]。この調査は参与観察による事例研究であり、全国的な実態を数量的に示したものではありません[17]。
では、この社会的なイメージは保有率の差をどこまで説明するのでしょうか。正直に言えば、国ごとの保有率の差の原因を切り分けた研究は、この記事で挙げた資料の中にはありません。世代構成や宗教、調査方法の違いなど、数字に影響する要素はほかにもあります。それでも、タトゥーと暴力団への連想や、それにともなう社会的な不利益は、日本の現在を知るうえで無視できない背景です[17]。
法律とルールはいま、どこにいるのか
厚生労働省が2023年7月3日に出した通知は、2020年9月16日の最高裁判所決定を紹介しています[14]。当該事件で問題になったタトゥーの施術行為は、医行為に当たらないという判断です[16]。この最高裁決定は、医行為についての判断枠組みを示しました[16]。医行為とは「医療及び保健指導に属する行為の中で,医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」を指すとしています[16]。また、最高裁決定は医業について「医行為を業として行うこと」としています[16]。厚生労働省の通知では、医業を医行為を反復継続する意思をもって行うことと説明しています[14]。この決定により、この事件で問題になった施術行為は、医師法違反に当たらないことが示されました[16]。
ただし、この判断は当該事件の具体的な施術行為を前提にしたものです。あらゆる名称や方法によるタトゥー施術すべてに、無条件で当てはまる一般的な免責ではありません[14]。これで施術のルール全体が整ったわけでもありません。厚生労働省の研究班は2023年の報告書で、この決定を踏まえた見解を示しています[15]。当該決定と同様の施術行為については、医師以外が行っても医師法による規制の対象ではないとしています[15]。
では、施術の安全はどう守られるのでしょうか。同じ研究班は、施設や区域管理、器具、リネン・環境、職員の衛生管理などをまとめた「タトゥースタジオにおける衛生管理に関するガイドライン」を作成しています[15]。この研究報告書が示すガイドラインは、厚生労働科学研究の成果としてまとめられたものです[15]。法令や告示としての拘束力があるかどうかは、この報告書だけでは判断できません。法令に基づく資格制度が別に存在するかどうかも、この報告書だけでは分かりません。
また、似た行為でも法的な扱いが違う例があります。針先に色素を付けて、眉毛又はアイラインを描く行為について、医師免許を持たない者が行うことは医行為に当たるとの扱いが通知で示されています[14]。この最高裁決定は、行為の方法や目的、具体的状況、実情、社会的な受け止め方などを考慮するとしています[16]。通知はこの判断枠組みに触れながら、アートメイクを医行為として扱う結論を示しています[14]。
ランキングの数字と、どう付き合うか
ここまでの数字を並べると、次のようになります。2018年の18カ国調査では、イタリアの回答者48%がタトゥーありと答えました[8]。ただしこれはインターネット利用者を対象にした一つの民間調査で、世界中の国を並べたランキングではありません[8]。同じイタリアでも、12歳から75歳以上の一般人口7,608人への全国調査では推定12.8%でした[9]。米国も、Pewの2023年調査では32%、Harris Pollの2016年調査では29%と、調査によって数字は大きく変わります[10,11]。
総務省統計局の国勢調査は、世帯員に関する15項目と世帯に関する4項目、合計19項目を調べていますが、タトゥーの有無は含まれていません[19]。これはこの記事で確認できた範囲の結果であり、全国規模の公的統計がほかに存在しないと証明するものではありません。20代から50代の6,438人への実態調査では、タトゥー1.6%、彫り物0.7%という数字があります[12]。ただし、そのまま各国と比べられるものではありません。
タトゥーの統計は、調査元や調査年、調査方法、そして分母によって数字が変わります。「世界の何%」という見出しの裏には、必ず具体的な調査があります。出典をたどれる数字かどうかが、ランキング記事を読むときの目安になります。イタリアの48%、12.8%、米国の32%、29%、日本の1.6%という数字は、それぞれ異なる調査から出たものです[8,9,10,11,12]。出典を確認する習慣があれば、ランキング記事はタトゥー文化を知るための入り口になります。
よくある質問
- Q. 世界でいちばんタトゥーが多い国はどこですか?
- ドイツの調査会社Dalia Researchが2018年に18カ国で行った調査では、イタリアが48%で首位でした。2位はスウェーデンの47%、3位は米国の46%で、上位はほぼ横並びです。
- Q. 日本のタトゥー保有率はどのくらいですか?
- 日本には公的な統計がありません。関東弁護士会連合会が2014年に行ったアンケート調査では、入れ墨・タトゥーがあると答えた人は1.6%でした。あくまで一つの調査による推定値です。
- Q. 米国のタトゥー保有率の最新データはありますか?
- Pew Research Centerの2023年調査では、米国の成人の32%がタトゥーを入れており、22%は2つ以上持っていると報告されています。調査方法によって数字は変わるため、出典の確認が大切です。
- Q. なぜ日本はタトゥーが少ないのですか?
- 日本では1872年に入れ墨が法律で禁止され、1948年まで続きました。この間に彫り物文化は地下に潜り、戦後は反社会的なイメージと結び付きました。欧米でファッションとして広まった流れとは対照的です。
References
- [8]Statista Research Department / Dalia Research. Share of tattooed people in selected countries worldwide in 2018. Statista(原データ:Dalia Research), 2018. https://www.statista.com/statistics/941731/share-of-people-with-tattoos-in-selected-countries/
- [9]Alberto Renzoni, Antonia Pirrera, Francesco Novello, Alessandra Lepri, Paolo Cammarata, Cristiano Tarantino, Fortunato D'Ancona, Alberto Perra. The tattooed population in Italy: a national survey on demography, characteristics and perception of health risks. Annali dell'Istituto Superiore di Sanità / Istituto Superiore di Sanità, 2018. doi:10.4415/ANN_18_02_08
- [10]Katherine Schaeffer, Shradha Dinesh. 32% of Americans have a tattoo, including 22% who have more than one. Pew Research Center, 2023. https://www.pewresearch.org/short-reads/2023/08/15/32-of-americans-have-a-tattoo-including-22-who-have-more-than-one/
- [11]Larry Shannon-Missal. Tattoo Takeover: Three in Ten Americans Have Tattoos, and Most Don't Stop at Just One. The Harris Poll, 2016. https://www.prnewswire.com/news-releases/tattoo-takeover-three-in-ten-americans-have-tattoos-and-most-dont-stop-at-just-one-300217862.html
- [12]鈴木公啓、大久保智生. いれずみ(タトゥー・彫り物)の経験の実態および経験者の特徴. 対人社会心理学研究 / 大阪大学大学院人間科学研究科対人社会心理学研究室, 2018. doi:10.18910/70538
- [13]Hidetsugu Yamakoshi. Living with Tattoos: A Case Study of Young People Managing a Hip Hop and Streetwear Store in the Tokyo Suburbs. Journal of Rural and Community Anthropology, 2020. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jrca/21/1/21_115/_pdf/-char/en
- [14]厚生労働省医政局医事課. 医師免許を有しない者によるいわゆるアートメイクの取扱いについて(医政医発0703第5号). 厚生労働省, 2023. https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc7817&dataType=1&pageNo=1
- [15]小野太一、佐伯仁志、米村滋人、加藤英明ほか. タトゥー施術等の安全管理体制の構築に向けた研究 令和4年度総括・分担研究報告書. 厚生労働行政推進調査事業費補助金・厚生労働科学特別研究事業, 2023. https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/download_pdf/2022/202206020A.pdf
- [16]最高裁判所第二小法廷. 平成30年(あ)第1790号 医師法違反被告事件. 最高裁判所, 2020. https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-89717.pdf
- [17]Hidetsugu Yamakoshi. Living with Tattoos. Japanese Review of Cultural Anthropology, 2020. doi:10.14890/jrca.21.1_115
- [18]大輝 関谷. 入墨・タトゥーがある客の利用可否をめぐる現状と課題. 観光研究, 2022. doi:10.18979/jitr.34.1_5
- [19]令和2年国勢調査 調査の概要. 総務省統計局, 2020. https://www.stat.go.jp/data/kokusei/2020/gaiyou.html
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