
赤いタトゥーの反応報告は本当に多いのか
「赤インクはやばい」という声には、たしかに背景があります。デンマークの専門外来で2008年から2015年に診断された405人・493件のタトゥー関連トラブルを調べた研究では、493件中184件(37%)がアレルギー反応でした[3]。盛り上がるプラーク状の病変は、493件全体の32.2%を占め、主に赤色または赤系のタトゥーに見られました[3]。フィンランドでは、大学病院皮膚科や会員医師の診療、タトゥー施術者、専門フォーラムなど複数の経路を通じて集められた症例もあります。その中で皮膚反応のあった31人のうち16人(52%)がアレルギー性で、その16人中12人(75%)は主に赤色への反応でした[6]。コペンハーゲンの専門外来を受診した患者さんや、フィンランドで複数の経路から集められた症例の中でも、赤の反応が目立つのは事実です。
街頭での調査にも似た傾向があります。ニューヨークのセントラルパークで、タトゥーのある300人に聞いた調査では、31人(10.3%)が何らかの有害反応を経験していました[2]。内訳は、急性の反応が13人(4.3%)、特定の色に関係する4か月超の慢性反応が18人(6.0%)です[2]。色に特異的な反応のうち44%は赤でしたが、調査対象者に赤いタトゥーがある割合は36%でした[2]。つまり赤の反応は多めではあるものの、赤を持っている人の多さをわずかに上回る程度だったのです。
ここで大事なのは「分母」です。ここまで見た数字は、すでにトラブルが起きて医療機関を受診したり、症例として報告されたりした人の内訳です。赤いタトゥーを入れた人全員のうち何%に反応が出るか、という発症率ではありません。赤の症例が多いからといって「赤なら高い確率で反応が出る」とは読めないのです。次に、分母のはっきりしたデータを見てみましょう。
タトゥーを入れた人全体では、どのくらい起こるのか
デンマーク中部地域で2021年に行われた住民調査は、分母がはっきりしています。回答者33,925人のうち、タトゥーのある人は5,914人(加重割合21.1%)でした[1]。このうち、施術後3週間を過ぎてからのかゆみ、痛み、炎症、腫れを経験した人は10.2%です[1]。ただしこれは自己申告の広い「皮膚反応」であり、アレルギーと診断された割合ではありません。かゆみがしばらく続いた、といった軽い訴えも含む数字です。
同じ調査では、黒だけのタトゥーと比べて、黒以外の色を含むタトゥーで皮膚反応の起こりやすさが高い傾向でした[1]。また、反応を経験した人のうち、医師の診察を受けたり病院にかかったりした人は7.8%でした[1]。ただしこれは、医師や病院を受診したかどうかという行動の記録です。残り92.2%が受診しなかった理由には、症状の軽さだけでなく、症状の続いた期間や受診のしやすさ、本人の判断なども考えられ、データからは特定できません[1]。「タトゥーのある人の約1割に何らかの皮膚反応を経験し、そのうち7.8%が医師や病院を受診した」。これが分母つきで言える範囲です。
赤インクの中身:顔料は何でできているのか
「赤インクは水銀朱でできている」「赤は酸化鉄」といった説明を見かけますが、現代のインクの実態はもっと複雑です。米国で製造・卸売された1,416種類のタトゥーインクについて、製品ラベルや販売資料に記載された顔料情報を調べた研究があります。この研究では、1ボトルあたりの表示顔料数は平均3.0種類でした[4]。確認された顔料は44種類でした[4]。このうち鉄、バリウム、亜鉛、銅、モリブデン、チタンを含む金属系が10種類、残る34種類は炭素、アゾ、キナクリドン、アントラキノンなどの有機系です[4]。44種類中11種類(25%)は接触皮膚炎の原因として疑われ、うち5種類はパッチテストで確認されていました[4]。
では、実際に赤いタトゥーで慢性反応を起こした皮膚には、何が入っているのでしょうか。慢性の赤色タトゥーアレルギー反応の皮膚生検104検体を調べた研究があります[5]。検出された顔料はアゾ系のPigment Red 22が35%、Pigment Red 210が24%、Pigment Red 170が12%でした[5]。Pigment Orange 13は11%、Pigment Violet 23は8%です[5]。酸化鉄の使用を示す鉄粒子が確認されたのは、有機顔料のあった検体のうち6検体にとどまりました[5]。ただし研究者らは、これらの有機顔料が実際に免疫反応の標的(エピトープ)になっているかどうかは確定していないとしています[5]。検出される頻度が高いことと、その顔料が反応の原因だと証明されたことは別です。
同じ研究ではニッケルとクロムも検出されましたが、研究者らは、金属汚染が赤色タトゥーアレルギーに果たす役割は確定できないと結論しています[5]。また104検体中23検体(22%)では、赤から紫の有機顔料も鉄粒子も検出できませんでした[5]。製品ごとに顔料や添加物の組み合わせは違います。反応の原因を「水銀だから」「酸化鉄だから」と一つの成分に決めることはできません。
赤だけが危ないわけではない
症状はいつ、どんな形で出るのか
反応が出る時期には幅があります。診断の進め方をまとめた総説では、施術後1か月以内に出るものを早期反応、数か月から数年たってから出るものを遅発反応として扱っています[7]。入れた直後は何ともなかったのに、何年もあとになってかゆくなり始める。タトゥーのアレルギーには、そんな時間差があり得ます。「もう何年も前だから関係ない」とは言い切れないのです。
見た目にも幅があります。フィンランドの症例集積では、散らばった小さなぶつぶつ(丘疹)やしこり(結節)から、ある色の部分全体が硬く盛り上がるものまで報告され、病変にはかゆみがあり、ときに痛みも伴いました[6]。総説は、アレルギーを疑う所見として「同じ色を入れた部分全体に均一に続く」プラーク状や苔癬様の病変を挙げています[7]。赤い線の部分だけがそっくり盛り上がる、といった出方です。
一方で、感染の場合は少し違います。総説によれば、早期の反応で感染を疑う所見や膿のような分泌物があるときに、培養検査や生検を行うことが勧められています[7]。強い痛みや腫れがあっても、それだけでアレルギーか感染かを判断することはできません。自己判断で決めつけず、皮膚科で確かめてもらうことが大切です。
反応が続いたら:皮膚科でしてもらえること
かゆみや盛り上がりが続くときの受診先は皮膚科です。遅発性または長く続く反応では、皮膚の一部を採って調べる生検で、感染、全身性の肉芽腫性疾患、リンパ系の腫瘍などを除外することが勧められています[7]。数週間たっても引かない症状を様子見で放置するより、原因を確かめてもらうほうが結果的に早道です。
治療の選択肢もあります。フィンランドの症例では、アレルギー性のタトゥー反応は主に塗るステロイド、ステロイドの病変内注射、または病変部の外科的切除で治療されていました[6]。症状の強さや範囲によって適した手段は変わるため、医師と相談しながら決めることになります。
「パッチテストをすれば原因の色素がわかるのでは」と思うかもしれません。ただ、1997年から2022年までの文献をまとめた総説は、パッチテストだけでタトゥーアレルギーを信頼性高く診断することはできないとしています[8]。顔料が皮膚に浸透しにくいこと、顔料がアレルゲンに変わる過程が遅いこと、検査用の顔料が手に入りにくいことが理由に挙げられています[8]。テストが陰性でも、インクへのアレルギーは否定できないと覚えておいてください。
施術前にできる備えと、相談の仕方
施術前にできることもあります。金属アレルギーがある方や、過去に化粧品やアクセサリーでかぶれた経験のある方は、カウンセリングの段階で必ず伝えてください。色数を絞る、赤系の面積を小さくする、まず小さなデザインから始めるといった相談自体は可能です。ただし、これらの調整がアレルギー反応の発症を防いだり予測したりする効果を示す出典は、本稿にはありません。金属へのパッチテストが陽性でも、それがタトゥーの反応と臨床的に関連しない場合があるとされ、金属感作とタトゥー反応の個人レベルの予測関係は確立されていません[8]。小さな範囲で試した施術が問題なかったとしても、その後の大きな施術の安全性を保証するものではない点にも注意してください。金属アレルギーとタトゥーの関係については、姉妹サイトinklyのQ&Aでも詳しくお答えしていますので、あわせてご覧ください。
最後に、数字をもう一度並べます。タトゥーのある5,914人の住民調査で、施術後3週間を過ぎてからの皮膚反応の経験者は10.2%でした[1]。そのうち医師や病院を受診した人は7.8%です[1]。赤は専門外来の症例や色特異的反応の内訳で目立つ色ですが[2,3,6]、これは赤色を選んだ人全体の発症率を示す数字ではありません。反応が出たときの見分け方と受診の目安さえ知っておけば、必要以上に怖がらずに好きな色を選べます。デザインや色で迷うことがあれば、予約時にお気軽にご相談ください。
よくある質問
- Q. 赤いタトゥーはアレルギーが出やすいのですか?
- トラブルで専門外来を受診した人の中では、赤への反応が多く報告されています。ただしこれは受診者の内訳で、赤を入れた人全体の発症率ではありません。タトゥーのある5,914人の住民調査では、3週間を過ぎてからの皮膚反応の経験者は全体の10.2%で、その多くは受診に至らない程度でした。
- Q. タトゥーのアレルギー反応はいつごろ出ますか?
- 施術後1か月以内に出る早期反応と、数か月から数年たってから出る遅発反応があります。入れた直後は問題がなくても、あとから同じ色の部分全体にかゆみや盛り上がりが出ることがあります。
- Q. 赤いタトゥーがかゆいとき、まず何をすればよいですか?
- 数週間たっても引かないかゆみや盛り上がりは、皮膚科の受診をおすすめします。強い痛み、熱感、じくじくした滲出、潰瘍は感染を示唆する所見とされるため、自己判断せず早めに診てもらってください。治療には塗るステロイド、病変内注射、切除などの選択肢があります。
- Q. パッチテストで事前にアレルギーがわかりますか?
- パッチテストだけでタトゥーインクのアレルギーを信頼性高く診断することはできない、とする総説があります。テストが陰性でもインクへのアレルギーは否定できません。金属アレルギーなどの体質がある方は、カウンセリングの段階でご相談ください。
References
- [1]Karina Friis, Anne Marie Ladehoff Thomsen, Jørn Olsen, Mikael Rahbek Rørth, Jørgen Serup. Tattoo-associated skin reactions: a Danish population-based survey in 5,914 tattooed individuals. Dermatology, 2024. doi:10.1159/000535536
- [2]Bobbi G. Brady, Heidi Gold, Elizabeth A. Leger, Marie C. Leger. Self-reported adverse tattoo reactions: a New York City Central Park study. Contact Dermatitis, 2015. doi:10.1111/cod.12425
- [3]Jørgen Serup, Mitra Sepehri, Katrina Hutton Carlsen. Classification of Tattoo Complications in a Hospital Material of 493 Adverse Events. Dermatology, 2016. doi:10.1159/000452148
- [4]Walter Liszewski, et al.. Pigments in American tattoo inks and their propensity to elicit allergic contact dermatitis. Journal of the American Academy of Dermatology, 2019. doi:10.1016/j.jaad.2019.01.078
- [5]Jørgen Serup, Katrina Hutton Carlsen, Nils Dommershausen, Mitra Sepehri, Bernhard Hesse, Christian Seim, Andreas Luch, Ines Schreiver. Identification of pigments related to allergic tattoo reactions in 104 human skin biopsies. Contact Dermatitis, 2020. doi:10.1111/cod.13423
- [6]Nicolas Kluger. Cutaneous Complications Related to Tattoos: 31 Cases from Finland. Dermatology, 2017. doi:10.1159/000468536
- [7]José Francisco Silvestre, Irene González-Villanueva. Diagnostic Approach for Suspected Allergic Cutaneous Reaction to a Permanent Tattoo. Journal of Investigational Allergology and Clinical Immunology, 2019. doi:10.18176/jiaci.0383
- [8]Markus Weiss, Nicolas Kluger, Jørgen Serup, et al.. Hypersensitivity to permanent tattoos: Literature summary and comprehensive review of patch tested tattoo patients 1997-2022. Contact Dermatitis, 2023. doi:10.1111/cod.14291
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