なぜタトゥーインクが規制対象になってきたのか
タトゥーインクは長いあいだ、世界の多くの地域で、実際には業界の自主的な決まりに任されてきました。成分表示の義務や販売前の審査が整っていない国がほとんどで、含まれる物質はメーカーごとに大きく異なっていました[1,2]。近年、皮膚科では、アレルギー性接触皮膚炎・色素肉芽腫・苔癬様反応などの症例報告が積み重なってきました。そうしたなかで、インクに含まれる顔料や添加物の安全性への関心が一気に高まりました[2,3]。
特に重金属(カドミウム・水銀・鉛など)、芳香族アミン、特定の有機顔料は、発がん性や、アレルギーを起こす性質(感作性)が心配されてきました。規制当局が対応を迫られる状況が続いていました[2,4]。エフェメラルタトゥーのような新しい種類の製品も、既存の規制のもとで販売されます。施術で使うインクを選ぶ際にも、各国の規制を知っておく必要があります[7]。
- 枠組み
- MoCRA(2022年成立)
- 中身
- 一定の例外を除き、施設登録・製品リスト・安全性記録・重大有害事象報告を義務化
- 枠組み
- REACH Annex XVII Entry 75(2022年1月施行)
- 中身
- 約4,000種の有害化学物質に濃度上限。超えると域内販売禁止
| 地域 | 枠組み | 中身 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 米国 | MoCRA(2022年成立) | 一定の例外を除き、施設登録・製品リスト・安全性記録・重大有害事象報告を義務化 | 製品は原則事前承認なし。色素添加物は用途別承認の対象で、注入用途の承認はない[5,6] |
| EU | REACH Annex XVII Entry 75(2022年1月施行) | 約4,000種の有害化学物質に濃度上限。超えると域内販売禁止 | Pigment Blue 15:3/Green 7 は猶予後に制限[8,9] |
| 日本 | 用途に応じた制度確認が必要 | 針・マシンの通知と、インクの法的区分は別に確認する | 販売元・成分・ロットを追跡できるか確認[7,13] |
米国、MoCRA(化粧品規制現代化法)下のタトゥーインク
米国ではタトゥーインクは以前から化粧品として、含まれる顔料は色素添加物としてFDAの規制対象でした[5]。2022年12月に成立したMoCRAは、この監督権限と事業者の義務を強化した法律です。一定の例外を除き、製造施設の登録、製品・成分情報の提出、安全性を裏付ける記録の保持、重大な有害事象の報告などが実施されています。重大な有害事象は、責任者が報告を受けてから15営業日以内のFDAへの報告が求められます[6]。
完成した化粧品自体は原則としてFDAの事前承認を受ける制度ではありません。一方、色素添加物は用途ごとの事前承認の対象です。FDAは、皮膚への注入用として承認した色素は一つもないと説明しています[5]。食品や医薬品など別の用途で使用されている成分であっても、その事実だけでタトゥーとして注入する安全性が確認されたことにはなりません。
EUのREACH改正による幅広い顔料の制限
欧州では2022年1月、REACH(化学物質の登録・評価・認可・制限)規則のAnnex XVII Entry 75として、新しい規制が始まりました。タトゥーインクやパーマネントメイク製品に含まれる約4,000種類の有害な化学物質が、規制の対象になりました[8,9]。具体的には、がんの原因になる、遺伝子に変化を起こす、生殖に害があるといった物質(CMR物質)や、アレルギー反応を起こしやすくする物質(強い感作性物質)、皮膚を刺激する物質などに、濃度の上限が決められました。上限を超える製品は、EUの中で売ることが禁止されています[8]。
特に注目されたのが、青色顔料 Pigment Blue 15:3 と緑色顔料 Pigment Green 7 の取り扱いです。これらは多くのタトゥーインクの基本顔料として広く使われており、当初の制限案は業界に大きな影響を与えました。最終的にはこの2顔料に追加の猶予期間(2023年1月まで)が設けられ、その後制限対象となりました[8,9]。Chemistry Worldが2024年に報じた調査では、EUで売られているインクから、まだ禁止された顔料が見つかったとされています。規制と実際とのずれが、課題として残っています[10]。
約4,000種
新たに規制対象となった有害化学物質
CMR物質・感作性・刺激性など
2顔料
Pigment Blue 15:3 と Green 7
猶予期間(2023年1月まで)後に制限
日本:施術器具とインクの制度を分けて確認する
厚生労働省の2022年通知は、装飾タトゥーの施術だけを目的とする針・マシン等は医療機器に該当しないとしています[11]。これは器具の通知であり、インクの分類を一括して定めたものではありません。業務でインクを輸入・使用する場合は、製品の用途や表示を示して、適用される制度と必要な手続きを所管窓口に確認してください。
施術そのものについては、2020年の最高裁決定(彫師の医師法違反事件、無罪確定)のあと、タトゥーを医療行為とは分けて考える整理がある程度進みました。ただし、インクの成分の規制と、施術する資格は、別の問題として残っています[12]。エフェメラルタトゥーを含む海外発の新しいインクが国内で出回るときは、取り扱いスタジオが正規代理店を通して入手しているかどうかが、大事な目安になります。製造元や流通経路をさかのぼって確認できるか(トレーサビリティ)にかかわるからです[7,13]。
エフェメラルタトゥーと各国の規制
Ephemeralは、他分野で使用実績のある成分の採用、重金属不使用、IRB(研究倫理審査委員会)の承認を受けた研究の実施などを説明しています[7]。これらのメーカー説明は、FDAが製品や皮膚注入用の色素を承認したことを意味しません[5]。事業者にはMoCRAに基づく安全性の根拠の記録などが求められますが、研究倫理審査や記録の保持も製品承認とは別です[6]。
メーカーはEU向け製品についてREACHへの適合を説明しています[7]。ただし、特定物質の制限への適合と、製品の長期的な安全性の実証は同じではありません。日本向けの製品も、海外版と成分・仕様が同じか、成分やロットを追跡できるかを確認し、必要な制度上の扱いは別途確認してください。
よくある質問
- Q. 米国ではタトゥーインクは認可制ですか?
- 完成した化粧品自体は原則として事前承認制ではありませんが、色素添加物は用途別の承認対象です。FDAが皮膚への注入用として承認した色素はありません[5]。タトゥーインクはMoCRA以前から規制対象で、同法は施設登録、製品リスト、安全性記録、重大有害事象報告などを強化しました[6]。
- Q. EU REACHで禁止された顔料はありますか?
- 2022年1月のREACH Annex XVII Entry 75改正により、約4,000種類の有害化学物質に濃度上限が設定されました。Pigment Blue 15:3 と Pigment Green 7 は、追加の猶予期間(2023年1月まで)のあとに制限の対象になりました。ただ、2024年のChemistry Worldの調査では、まだ禁止された顔料が見つかったと報告されています。
- Q. 日本にはタトゥーインクの専用法令がありますか?
- 今回確認した厚労省の通知は、装飾タトゥー専用の針・マシン等が医療機器に当たらないというもので、インク全体の分類を決めた通知ではありません[11]。業務で輸入・使用する際は、製品の用途や表示に基づいて、所管窓口に適用制度と手続きを確認してください。
- Q. エフェメラルタトゥーは「FDA認可」ですか?
- Ephemeralインク自体がFDAに承認されたわけではありません。メーカーが他分野で使用実績のある成分を使うと説明していても、皮膚への注入用途の承認や安全性の保証にはなりません。FDAは注入用に承認した色素はないと説明しています[5, 7]。
References
- [1]The pressing need for FDA regulation of tattoo ink. PubMed Central, 2024. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11228856/(accessed 2026-05-24)
- [2]Islam PS, Chang C, Selmi C, Generali E, Huntley A, Teuber SS, Gershwin ME. Medical Complications of Tattoos: A Comprehensive Review. Clinical reviews in allergy & immunology, 2016. doi:10.1007/s12016-016-8532-0(accessed 2026-05-24)
- [3]Cutaneous Adverse Reactions Associated with Tattoos and Permanent Makeup Pigments. Journal of Clinical Medicine, 2024. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10816451/(accessed 2026-05-24)
- [4]Tattoo inks and permanent make-up. European Chemicals Agency (ECHA). https://echa.europa.eu/hot-topics/tattoo-inks(accessed 2026-05-24)
- [5]FDA. Tattoos & Permanent Makeup: Fact Sheet. FDA. https://www.fda.gov/cosmetics/cosmetic-products/tattoos-permanent-makeup-fact-sheet(accessed 2026-05-24)
- [6]FDA. Modernization of Cosmetics Regulation Act of 2022 (MoCRA). FDA. https://www.fda.gov/cosmetics/cosmetics-laws-regulations/modernization-cosmetics-regulation-act-2022-mocra(accessed 2026-05-24)
- [7]How It Works / Safety FAQ. Ephemeral Tattoo(公式). https://ephemeral.tattoo/how-it-works/(accessed 2026-05-24)
- [8]Tattoo inks and permanent make-up — REACH Annex XVII Entry 75. European Chemicals Agency (ECHA). https://echa.europa.eu/hot-topics/tattoo-inks(accessed 2026-05-24)
- [9]Tattoo inks and permanent make-up. European Chemicals Agency (ECHA). https://echa.europa.eu/hot-topics/tattoo-inks(accessed 2026-05-24)
- [10]Banned pigments found in tattoo inks sold in the EU. Chemistry World, 2024. https://www.chemistryworld.com/news/banned-pigments-found-in-tattoo-inks-sold-in-the-eu/4020247.article(accessed 2026-05-24)
- [11]タトゥー施術行為に使用されることが目的とされている機械器具について(薬生監麻発0428第1号). 厚生労働省, 2022. https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc6733&dataType=1&pageNo=1(accessed 2026-05-24)
- [12]彫師の医師法違反事件・最高裁決定(2020). 最高裁判所. https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-89717.pdf(accessed 2026-05-24)
- [13]Ephemeral Japan 公式取り扱いスタジオ案内. TATTOO LAB JAPAN / Ephemeral Japan. https://tattoo-japan.com/ephemeral(accessed 2026-05-24)
