
エフェメラルって、そもそも何?
エフェメラル(Ephemeral Tattoo)は、2014年にニューヨーク大学の学生5人が考え出したタトゥーです[1]。中心になったVandan ShahとBrennal Pierreは、「手術で使う“溶ける糸”の素材を応用すれば、肌にしっかり入るのに時間がたつと消えていくインクが作れるのでは」と考えました[1]。一生残ることが当たり前だったタトゥーに、「いつか消える」という新しい選択肢を持ち込みました。
2021年にニューヨーク・ブルックリンで1号店を開いたあと、ロサンゼルスやサンフランシスコなどへ直営店を広げました[1,17]。そして2023年からは、自社で店を運営するスタイルをやめ、世界中のタトゥースタジオへ正規インクを卸す形(B2B)に切り替えています[1,2]。会社はいまも続いていて、研究開発とインク供給も止まっていません。日本でも、各地の正規取り扱いスタジオで施術を受けられます[1]。
2014
NY大学で誕生
学生5人のアイデアから
2021
直営1号店
ブルックリンで開業
2023〜
卸売モデルへ
世界のスタジオへ供給
20,000+
世界の施術実績
なぜ普通のタトゥーは一生消えないの?
通常のタトゥーでは、表皮の下の真皮に入った色素をマクロファージなどの細胞が取り込みます。マウスの研究では、色素を取り込んだマクロファージを除去しても、色素がその場に残りました[4,6]。粒子の大きさだけで分解や排出の可否が決まるわけではありません。
2018年にBaranskaらが行ったマウス実験では、薬剤で色素を取り込んだマクロファージを除去すると、放出された色素が新たなマクロファージに取り込まれました。除去から90日後には再捕捉が確認されています[4]。これは実験後の観察時点で、人の細胞が90日周期で入れ替わるという意味ではありません。細胞の入れ替わりを越えて色素が保持される仕組みを示す結果です[4,6]。
色素が皮膚に保持される仕組みを踏まえ、エフェメラルは時間とともに体内で分解される材料を用いる設計を採っています。ただし、通常のタトゥーを調べたマウス実験だけで、エフェメラルの消退や全成分の排出を証明できるわけではありません[4,7]。
エフェメラルは、どうやって消える?
メーカーは、エフェメラルを生体内で分解・吸収されるポリマーと色添加剤を用いた水性インクと説明しています[7]。ただし、公開説明から現行製品のポリマーをPLGAと特定することはできません。食品や化粧品にも使われる色添加剤であっても、皮内に入れる製品としての安全性は別に確かめる必要があります。
生分解性ポリマーの一例であるPLGAは、水によってエステル結合が切れる「加水分解」で分解します[18]。内部にも水が入り分解が進みますが、内部で生じた酸が分解を速めるため、不均一になる場合もあります[18]。これはPLGA一般の説明で、エフェメラルの現行処方を直接調べた結果ではありません。
PLGAは乳酸やグリコール酸などへ分解され、体内で代謝されます[18]。一方、ポリマーの分解と、色素の行き先は同じ問題ではありません。メーカーはインクが時間とともに分解・除去される設計と説明していますが[7]、引用したPLGA総説はエフェメラルの全色素が体外へ排出されることや、残留しないことを実証したものではありません。
本当に消える? データで見る消え方の実績
エフェメラルは当初「9〜15ヶ月で消える」と紹介されていました[5]。その後、メーカーは退色期間の幅を認め、Regret Nothing Guaranteeで、1年未満に退色した場合の無料代替施術と、3年を超えて残る場合の返金を案内しました[9,10]。これは自然に消える時期の上下限ではなく補償制度です。Blackインクや対象部位などの条件があり、日本の施術に適用されるかは施術先への確認が必要です。
2026年10月15日に確認したEphemeral社のEU版ページには、1年以内約8%、2年以内約76%、3年以内約98%という退色の予測が掲載されています[19]。実際に消えた人数を追跡した最新製品の実績とは確認できず、母数や測定方法、対象の製品世代も明示されていません。地域版で説明が異なるため、この数字をすべての製品に当てはめることはできません。
これらは期間内に退色するとメーカーが見込む割合で、平均の消退時間ではありません。退色には個人差があり、3年を超えて残る場合も補償制度は想定しています[9,10]。決まった日までに消える必要がある場合は、その期限を保証する数字として受け取らないでください。
約8%
1年以内の退色予測
メーカーEU版の目安
約76%
2年以内の退色予測
メーカーEU版の目安
約98%
3年以内の退色予測
メーカーEU版の目安
3年超残存
旧制度の返金条件
対象製品・部位等に条件[9]
消え方を左右する4つの要因
メーカーは、体の反応、施術部位、線の太さや塗りの密度で退色期間が変わると説明しています[9,10]。期間を一律に予測することはできません。アフターケアは皮膚の治癒のために行うもので、紫外線を浴びて消退を速めることは勧められません。
施術前には、希望する部位とデザイン、施術後のケアを相談してください[1]。表はメーカーの観察例と確認が必要な点をまとめたもので、個人の退色時期を予測するものではありません。
- メーカーの説明・観察例
- 体の反応には個人差がある
- 確認したい点
- 代謝の速さだけでは期間を決められない
- メーカーの説明・観察例
- 手首は遅め、肋骨・胸骨付近は早めの傾向[9]
- 確認したい点
- メーカーの観察例で、末端ほど早いという法則ではない
- メーカーの説明・観察例
- 細い線・疎な影は早め、濃い塗りは遅めの傾向[9]
- 確認したい点
- 施術の深さや個人差も関わる
- メーカーの説明・観察例
- 施術先の指示に沿って皮膚を保護する
- 確認したい点
- 紫外線で退色を速めようとしない
| 要因 | メーカーの説明・観察例 | 確認したい点 |
|---|---|---|
| 体質・代謝 | 体の反応には個人差がある | 代謝の速さだけでは期間を決められない |
| 部位 | 手首は遅め、肋骨・胸骨付近は早めの傾向[9] | メーカーの観察例で、末端ほど早いという法則ではない |
| デザイン | 細い線・疎な影は早め、濃い塗りは遅めの傾向[9] | 施術の深さや個人差も関わる |
| アフターケア | 施術先の指示に沿って皮膚を保護する | 紫外線で退色を速めようとしない |
医療の現場でも使われ始めている
Henry Ford HealthとEphemeralは、放射線治療の位置合わせ用マーカーを調べる研究を行い、2023年に初期結果を発表しました[8]。研究登録上の開始日は2022年6月23日です。発表時点では15人に44個のマーカーを使用し、初期の自己申告では有害反応はありませんでしたが、小規模な初期報告です。
放射線治療では毎回の位置合わせのために小さな印を付けます。永久的な印が治療後も残る負担を減らすため、時間とともに薄れるマーカーが研究されています[8]。医療用FadeMarkは通常6〜15か月での退色を想定しており、数週間の治療終了と同時に消える設計ではありません。装飾用インクとは添加物や想定期間も異なります。
世界と日本のルールと、安心して受けるためのコツ
タトゥーインクのルールは地域によって異なります。EUではREACH規則により、タトゥーやパーマネントメイクに用いる混合物中の多くの有害物質に濃度制限を設けています。2023年からはPigment Blue 15:3とPigment Green 7も制限対象です[11]。米国ではインクを化粧品、顔料を色素添加物として扱い、完成品の一般的な事前承認と色素添加物の承認制度を分けています[20]。
日本では2020年9月16日の最高裁決定で、当該事件のタトゥー施術は医師法の「医行為」に当たらないと判断されました[13]。これは施術行為についての判断であり、インクの成分や製品の安全性を承認したものではありません。
2022年の厚生労働省通知は、タトゥー施術を目的とする機械器具の取扱いを示したものです[14]。この通知や最高裁決定だけから、国内のインクに法律が一切適用されないとはいえません。製品の成分・用途・輸入形態などに応じた取扱いを、販売元や関係当局に確認する必要があります。
日本でエフェメラルを受けるときは、正規のインクを使っているスタジオかを確かめてください。当サイトの日本公式代理店ページでは、各地域の正規取り扱いスタジオを地図から探せます。
よくある質問
- Q. エフェメラルタトゥーは本当に消えますか?
- 時間とともに薄れるよう設計されています。メーカーEU版ページには、1年以内約8%、2年以内約76%、3年以内約98%という退色予測がありますが、最新製品の追跡実績とは確認できず、母数や方法も不明です。製品・部位・デザインや体の反応で経過が異なり、3年を超えて残る可能性もあります。
- Q. なぜ普通のタトゥーは消えないのですか?
- 真皮に入った色素は細胞に取り込まれ、細胞が死んでも別の細胞に取り込まれることで保持されます。2018年のマウス実験では、薬剤でマクロファージを除去した90日後に再捕捉が確認されました。これは人の細胞寿命や通常の周期を示す数字ではありません。
- Q. エフェメラルはどうやって消えるのですか?
- メーカーは、生体内で分解・吸収されるポリマーを用い、時間とともにインクが分解・除去される設計と説明しています。現行処方をPLGAと特定することや、全色素が残らず体外へ排出されることは、引用した一般的なポリマー研究からは確認できません。
- Q. どのくらいで消えますか?
- 製品、部位、デザイン、体の反応で異なり、決まった期限までに消えるとは約束できません。Regret Nothing Guaranteeの1年・3年は、無料代替施術や返金の条件です。自然消退の上下限ではなく、Blackインクや部位などの条件があるため、日本での適用は施術先に確認してください。
- Q. 日本でもエフェメラル施術は受けられますか?
- 正規のEphemeralインクを扱うスタジオで受けられます。公式代理店の一覧で取り扱いを確認し、使用製品とロット、衛生管理、退色の個人差や皮膚のリスクについて説明を受けてください。最高裁決定や機械器具の通知は、インクの品質や安全性を保証するものではありません。
References
- [1]Ephemeral Tattoo(公式サイト). Ephemeral Tattoo. https://ephemeral.tattoo/(accessed 2026-05-20)
- [2]How Ephemeral Transitioned from Studios to B2B Ink Supply. Highsnobiety. https://www.highsnobiety.com/p/ephemeral-tattoo-closing/(accessed 2026-05-20)
- [4]Baranska A. et al.. Unveiling skin macrophage dynamics explains both tattoo persistence and strenuous removal. Journal of Experimental Medicine, 215(4):1115–1133, 2018. doi:10.1084/jem.20171608(accessed 2026-05-20)
- [5]Rebecca Trager. Made-to-fade tattoos. Chemistry World, 2022. https://www.chemistryworld.com/news/made-to-fade-tattoos/4016538.article(accessed 2026-05-20)
- [6]Baranska A. et al.. Unveiling skin macrophage dynamics explains both tattoo persistence and strenuous removal. Journal of Experimental Medicine, 215(4):1115–1133, 2018. doi:10.1084/jem.20171608(accessed 2026-05-20)
- [7]How It Works — Ephemeral Tattoo. Ephemeral, Inc.. https://ephemeral.tattoo/how-it-works/(accessed 2026-05-20)
- [8]Henry Ford Health Partners with Ephemeral Tattoo for Radiation Therapy Markers. Henry Ford Health 公式, 2023. https://www.henryford.com/news/2023/05/ephemeral(accessed 2026-05-20)
- [9]Regret Nothing Guarantee. Ephemeral, Inc.. https://ephemeral.tattoo/regret-nothing-guarantee/(accessed 2026-05-20)
- [10]FAQ — Ephemeral Tattoo. Ephemeral, Inc.. https://kb.ephemeral.tattoo/(accessed 2026-05-20)
- [11]Tattoo inks and permanent make-up. European Chemicals Agency (ECHA) 公式. https://echa.europa.eu/hot-topics/tattoo-inks(accessed 2026-05-20)
- [13]タトゥー施術と医師法に関する最高裁決定(令和2年9月16日). 最高裁判所. https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-89717.pdf(accessed 2026-05-20)
- [14]タトゥー施術行為に使用されることが目的とされている機械器具について. 厚生労働省, 2022. https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc6733&dataType=1&pageNo=1(accessed 2026-10-16)
- [15]Ephemeral Tattoo 公式トップページ(アーカイブ). Ephemeral, Inc.. https://ephemeral.tattoo/(accessed 2026-05-20)
- [16]Rebecca Trager. Made-to-fade tattoos. Chemistry World, 2022. https://www.chemistryworld.com/news/made-to-fade-tattoos/4016538.article(accessed 2026-05-20)
- [17]How Ephemeral Tattoos Work — Fast Company Coverage. Fast Company, 2022. https://www.fastcompany.com/tag/ephemeral(accessed 2026-05-20)
- [18]Poly(lactic-co-glycolic acid) (PLGA) controlled release systems:エステル結合の加水分解により乳酸とグリコール酸へ分解される機序. PMC / NIH(米国国立医学図書館). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3719420/(accessed 2026-05-31)
- [19]How It Works — EU版の退色予測. Ephemeral, Inc.. https://ephemeral.tattoo/en-eu/how-it-works/(accessed 2026-10-15)
- [20]Tattoos & Permanent Makeup: Fact Sheet. FDA. https://www.fda.gov/cosmetics/cosmetic-products/tattoos-permanent-makeup-fact-sheet(accessed 2026-10-16)
- [21]Modernization of Cosmetics Regulation Act of 2022 (MoCRA). FDA. https://www.fda.gov/cosmetics/cosmetics-laws-regulations/modernization-cosmetics-regulation-act-2022-mocra(accessed 2026-10-16)
